10歳のときに木のてっぺんから眺めた空がとても近かったことを、私は今も覚えてる。 敷きつめられた濁りない雲。その白に艶麗さを添えるようにある、濃厚で鮮烈な青。 その空が放っていた躍動的な美しさは、いい想い出であると同時に、「"教師"という職業の人を機械的に尊敬すること」のアホらしさに気づいた日の分水嶺として、32歳となった今もなお、記憶の奥底で静かに脈打ち続けている。 ちょうど今くらいの、雨とも晴れとも覚束ない日々が続く梅雨時期に、私はそのひんやりとした冷たい絶望を思い出す。 ******* 10歳のその日、休み時間に仲が良かった男子たちが、景色が良さそうな場所を見つけた、 と教えてくれた。「ほんま!それどこにあるん?」と訊ねると、ひとりの男子が運動場の隅を指さした。 その先にあったのは、1本の杉の木。途方もない年月を乗り越え、"今ここに存在していること"を誇示するかのようにそびえ立つ巨木