1944年7月、有名なリングリング・ブラザース&バーナム&ベイリー・サーカスがコネチカット州ハートフォードにやって来た。ブラスバンドを先頭に象やピエロや軽業師たちが大通りを練り歩き、町はすっかりお祭り気分だ。 しかし、団員たちはこの興行に不安を抱いていた。というのも、第二次大戦のために人員と設備が不足し、遅れや不手際が日常的になっていたのだ。2年前の1942年8月4日には動物園から出火し、多くの動物が焼け死んだ。このたびもサーカス列車が遅れて、初日である7月5日の昼の興行に間に合わなかった。初日をトチるとロクなことがないとのジンクスがサーカスにはある。故に団員たちはナーバスになっていたのだ。 7月6日の昼の興行は予定通りに行われた。観客動員は実に8700人。満員御礼といったところだろう。 ショーの開始から20分ほど経過した頃、テントの南西側面から火の手が上がった。それを最初に見つけたバンド