裏社会の繊細な魂に迫る 映画や漫画や小説には、かっこいいヤクザや冷酷非情なヤクザが頻繁に登場する。だが、実際の彼らがなにをし、どんな考えや感情を抱いて生きているのか、知る機会はなかなかない。「ヤクザ社会」と「一般社会」のあいだには隔てがある。彼らはたしかに、現実に存在しているのに。 イスラエル人の著者は、隔てをものともせずヤクザ社会に深く踏み入り、『ヤクザの文化人類学』という好著もものした学者だ。本書は、その経験をもとにした「実録小説」。 失踪(しっそう)した友人がヤクザになったことを知り、著者は「彼を探してほしい」とヤクザの大親分に依頼する。その過程で目にする、裏社会の暴力と非情さ。でもそれ以上に印象的なのは、裏社会に生きる人々の繊細な魂だ。 著者は、単なる研究対象としてヤクザを選んだのではない。失踪した友人のヤクザを探しながら、自身のアイデンティティをも追求する。ひとはどこを自分の居場