"「ホメロスの時代には、ギリシアはどん底から抜け出したばかりだったの。紀元前一二〇〇年くらいまでギリシアには、ミケーネ文明っていう文明があった。戦争でこの文明が滅びて、ギリシアは貧しく野蛮になった。ホメロスのころには、貧しくなる前のギリシアがどんなふうだったか、すっかり忘れられてた。ホメロスが描いてる世界は、ミケーネ文明とは似ても似つかない。でも、たぶん、昔のギリシアはいまよりずっと素晴らしかった、ってことだけは覚えてた。だから『オデュッセイア』のラストには、『昔の素晴らしい世の中がずっと続いてほどかった』っていう嘆きがこめられてる。ペネロペは操を守り通して、オデュッセウスは戻ってきて、悪者の貴族は退治されて、イタカは元どおりになる――かなわなかった願いがこめられてるの。本当ならペネロペはさっさと再婚してるはず。だから物語のなかでは、すごくがんばって、オデュッセウスを待ちつづけた。本当なら