母性のディストピアとは何か(解説) 母性のディストピアとは宇野常寛『母性のディストピア』という本の題名であり、この本の骨格をなす概念でもある。はじめに宇野の定義をご紹介しよう。 妻を「母」と錯誤するこの母子相姦的想像力は、配偶者という社会的な契約を、母子関係という非社会的(家族的)に閉じた関係性と同致することで成り立っている。 本書では、この母子相姦的な構造を「母性のディストピア」と表現したい。 『母性のディストピア I』45頁 しかし、どうしてこのような想像力が日本社会では機能しているのだろうか。そこには日本的な成熟像が関係している。 近代社会では人は自立した個人として生きていくことが求められる。この「自立」は性的想像力でいえば、「父性」を背負わされていると言える。この父性でもって自立して生きていくのが普通の成熟の形だ。しかし、戦後日本社会においては父になるために、アイロニカルで歪んだ回