tsurezurenarumamaのブックマーク (113)

  • 「殺人容疑」デイヴィッド・グターソン - 海外ミステリ・レビュー

    1994年上梓、純度の高い傑作。 時は第二次大戦前後。舞台は米国ワシントン州の西にある孤島サン・ピエドロ。島民は約5千人、1920年代には多くの日人が移住し農業などに従事していた。今では、その二世らも大人になり米国籍を取得できる日を待っていた。だが、大東亜共栄圏という虚妄の大義を掲げ、覇権主義をひた走る〝祖国〟によって望みは打ち砕かれた。1941年12月8日、真珠湾攻撃を発端に米国との無謀な戦いを始めた日。敵国の人間として在米日人は強制収容所へと送られた。二世男子の少なからずは米兵として従軍、主にヨーロッパ戦線で対ナチスの地獄を味わう。その命懸けの〝愛国心〟の発露も虚しく、帰還した足に絡みついたのは依然として根深いレイシズムという鎖だった。 日敗戦から10年が経った1954年9月16日。沖一帯が濃い霧に覆われた早朝、漂っていた漁船から刺し網漁師カール・ハインの死体が発見された。当初

    「殺人容疑」デイヴィッド・グターソン - 海外ミステリ・レビュー
  • 「逃亡空路」スペンサー・ダンモア - 海外ミステリ・レビュー

    冒険小説とは、何よりも誇り高き男(女)たちの物語である。自覚した己の弱さを克服し、眼前に立ち塞がる様々な試練を経験と知恵で乗り越え、時に生命の危険を顧みず、強大なる自然の脅威や圧倒的な敵に敢然と立ち向かう。例え他人には愚かと罵られようとも、抑えきれない血の滾りがある限り前進し続ける。その勇姿にこそ冒険のロマンがある。 スペンサー・ダンモアは、今では忘れ去られた作家の一人だが、作には冒険小説に不可欠なエッセンスがぎっしりと詰め込まれている。第二次世界大戦末期のドイツを舞台に展開する脱出行は、時にユーモラスで牧歌的、時に凄まじい緊張感を強いつつ、冒頭から感動的なラストまで見事な筆致で描き切る。 英国空軍軍曹で機関士のポラードは搭乗機を撃墜され、ドイツ領内に落下傘降下する。雪の降りしきる極寒の中、重傷を負った上官とともにようやく辿り着いた民家には、一人の若い未亡人トゥルーデと、ヒトラー暗殺に失

    「逃亡空路」スペンサー・ダンモア - 海外ミステリ・レビュー
  • 「TVショウ・ハイジャック」レイモンド・トンプスン/トリーヴ・デイリィ - 海外ミステリ・レビュー

    地味な邦題(原題は「The Number to Call Is...」)と装幀のため長らく積ん読状態だった一冊。何気なく読み始めて驚く。冒頭から一気に引き込まれ、巻を措く能わず。濃厚且つ濃密なサスペンスが横溢する衝撃作で、完成度も高い。1979年発表の共作で唯一の翻訳。軽いミステリを好む読者には薦められないが、歯応えのあるシリアスな作品を望むならば必読といえる。ただし、作者は容赦なく読み手の許容量を超えるほどの精神的プレッシャーをかけてくる。覚悟されたし。 武器を手に突然スタジオへ乱入してきた4人の襲撃者。仮面を被った異様な姿は、そのままテレビ番組を通して生中継されていた。舞台は米国アラバマ州シルヴァー・スプリングズ。観光客が訪れることもないこの田舎町は、一夜にして全米のみならず、世界中に知れ渡ることとなる。正体不明の者たちは、僅かな時間でテレビ局を占拠した。出口を残らず塞ぎ、それぞれに高

    「TVショウ・ハイジャック」レイモンド・トンプスン/トリーヴ・デイリィ - 海外ミステリ・レビュー
    tsurezurenarumama
    tsurezurenarumama 2022/06/22
    耐性はついてないが、読みたい!
  • 「届けられた6枚の写真」デイヴィッド・L・リンジー - 海外ミステリ・レビュー

    無性に或る作家の世界観や文章表現に触れたくなる時がある。リンジーはその一人で、定期的に〝読まなければならない〟という衝動に駆られてしまう。作も、私の言い様のない渇きを癒やす泉のような作品だった。 ヒューストン警察の刑事スチュアート・ヘイドンは、望まない昇進を上層部に強要され、己の進むべき道に悩んでいた。管理職になれば、直接悪と対峙する機会が失われる。彼はどこまでも一介の刑事でありたかった。そんな折、自宅に匿名の封書が届く。中に入っていたのは色褪せた写真一枚。見知らぬ若い男の肖像画だった。次の日も写真が届いた。一枚目の男の肖像を描く女の後ろ姿。三日目には、どこかの街角に佇む二枚目の女。彼女も初見だった。この謎めいた写真を送り続ける者は誰か。その目的とは何か。ヘイドンは不覚にも、一枚目で描かれていた男の正体にようやく気付く。数十年前、飛行機事故によってと共に死んだウェブスター・ヘイドン。代

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  • 「Q E2を盗め」ヴィクター・カニング - 海外ミステリ・レビュー

    積ん読の山を崩して〝発掘〟。なぜ、早く読まなかったのかと後悔するほどの出来だ。硬質な筆致と手堅い人物造形。己の主義を貫く犯罪者たちの硬派なスタイルも良い。1969年発表、翻訳数が少ないカニングの実力に触れることができる犯罪小説の秀作。 主人公は英国人アンドルー・レイクス。主に企業相手に詐欺を働いてきた男で、充分なカネを蓄え、これを最後にと決めていた仕事を終えたばかりだった。相棒バーナーズとのコンビも解消。実は、二人が出会って以降、互いの名さえ知らないままでいたが、固い信頼関係を築いていた。レイクスは念願だった故郷へと帰る準備を進める。そんな中、或る実業家が接触を図ってきた。海外商業銀行会長サーリング。大企業を束ねる富豪として名は知られていたが、その実態は謎に包まれていた。サーリングは独自調査でレイクスの秘密を握り、己の犯罪計画に協力しなければ全てを暴露すると脅す。やがて〝獲物〟が明らかと

    「Q E2を盗め」ヴィクター・カニング - 海外ミステリ・レビュー
  • 必携!革靴5選!【持つべき靴を考えてみた】

    まずは5足そろえよう みなさんはを何足くらいもっていますか? 僕の想像だと、3足くらいという方が多いですかね? 僕は欲しいをあげるとキリがなく、革だけでもあっという間に10足を超えてしまいます。 しかし、そんなに持っていても使いきれないし、そもそもお金がかかる。 ということで、これさえあれば十分!という5足を選んでみました。 まずは、前提条件 5選を発表する前に、どんな人におすすめかという前提をお話します。 以下のような方をイメージして選んでみました。 要は、自分で使うということを考えてみたというわけです。 順番は多少前後しても構いませんが、上から順に揃えるのが良いかなと考えています。 ある程度を知っている人が見たら、少し以外な感じがするでしょうか。 初心者はまずこの革を揃えろ!的なサイトでは、まず初めにストレートチップを推すところが多いですよね。 僕がストレートチップをあまり推

    必携!革靴5選!【持つべき靴を考えてみた】
  • 「戦闘マシーン ソロ」ロバート・メイスン - 海外ミステリ・レビュー

    1989年発表作。装丁や粗筋からは、人型ロボットが暴れ回る〝SF軍事スリラー〟という印象を受ける。たいして期待せずに読み始めたのだが、作は近未来の戦争をシミュレートした無機質な戦闘物ではなく、冒険のロマンを絡めた実に読み応えのある力作だった。 〝主人公〟は、アメリカ国防省が20億ドルをかけて極秘裏に開発した実践型戦闘ロボット「ソロ」。最先端テクノロジーを集積した人口知能(AI)を搭載、独自に通信衛星とコンタクトし、あらゆる情報を瞬時に取得/解析/判断し行動する。言語能力にも優れ、違和感無く会話可能。武器は装備していないが、戦闘マシーンとして人間を遥かに超えた機能を持つ。外見は、全身を硬い装甲に身を包んだ兵士。危険を察知して回避する人間に近い〝恐怖感〟などの感情もある。まだテスト段階にあったが、上層部は実戦に投入。しかし、独自の〝正義感〟に覚醒したソロの反抗を招いてしまう。 舞台はニカラグ

    「戦闘マシーン ソロ」ロバート・メイスン - 海外ミステリ・レビュー
  • 「監禁面接」ピエール・ルメートル - 海外ミステリ・レビュー

    現代ミステリの最重要作家、2010年発表作。私の場合、購入したはしばらく〝寝かせる〟のが常だが、ルメートルだけは早々に積ん読から外している。一旦、冒頭を読み始めたなら、最終頁に辿り着くまで片時もから手を離せない。しかも、一度も期待を裏切られたことがない。作もプロットの骨格自体に大胆且つ斬新な仕掛けを施しており、劇的変転の見事さに圧倒された。物理的/心理的トリックを偏重する旧態依然のミステリでは味わえない重量級の読み応え。先鋭的アグレッシヴさでは当代随一だろう。 アラン・デランブル、57歳。大企業で管理職にまで昇り詰めたが、会社買収であっさり解雇される辛酸を嘗めた。失業して4年目、雑多なアルバイトを掛け持ちしていた男は、またとないチャンスを掴む。奇跡的に漕ぎ着けた一流企業の最終面接。役職は人事副部長でアランの経歴を生かせた。しかし、事前に告知された試験内容は前代未聞だった。同社の精鋭エ

    「監禁面接」ピエール・ルメートル - 海外ミステリ・レビュー
  • 「甦える旋律」フレデリック・ダール 【名作探訪】 - 海外ミステリ・レビュー

    「世界じゅうでいちばん悲しいものは? それは壊れたバイオリンではないかと思う」 ナイーヴで感傷的なモノローグで始まるこの物語を初めて読んだのは、私自身がまだまだ未熟で多感な時だった。読む物すべてが新鮮で知的な〝冒険〟に満ちていた頃。そんな中で作と出会い、心を揺さぶられた。読了後しばらくは深い余韻に浸り、何も手につかなった。ミステリの読み方を変えた一冊であり、悲劇的な終幕のカタルシスによって、心の奥深くに刻み付けられた作品である。 舞台はスペイン北東部の港湾都市カシティールデフェルス。真夜中の車道に潰れたバイオリン・ケース。溝の縁に横たわっている女。運転席の青年は、それを呆然と見つめる。 「この死人のようなバイオリンはぼくの心を痛ませた。この瞬間に、ぼくをここに導いたのは運命的な、一種の感情の昂ぶりだった」 女は青年が運転する車の前に突然飛び出してきた。幸いにも軽傷で済んだようだった。美し

    「甦える旋律」フレデリック・ダール 【名作探訪】 - 海外ミステリ・レビュー
  • 「ボーン・マン」ジョージ・C・チェスブロ - 海外ミステリ・レビュー

    実力派チェスブロの1989年発表作。娯楽的要素を盛り込んだ一味違うスリラーで、埋もれたままにしておくのは惜しい秀作だ。 激しい雨が降り続いていたニューヨーク/セントラル・パーク。その一角で憔悴した状態の浮浪者が市に保護された。男は入院後しばらく意識を失っていたが、ようやく長い眠りから覚めた。頭は冴えており、流暢に話せた。だが、自分が何者かが思い出せない。記憶を無くして呆然としている男に対し、病室の隅で待機していた大柄な刑事が告げた。「お前はホームレス連続殺人事件の容疑者だ」と。 刑事は証拠を二つ示した。先夜殺された老婆の首飾りを男が身に付けていたこと。そして、被害者の血痕が衣服に不着していたこと。男は自問する。俺は当に殺人者なのか。いや、決して狂ってはいない、と確信できた。だが、無実を晴らすためには、もと居た場所へと戻り、自分の行動を検証し直す必要があった。男は自らを〝見知らぬ男〟と捉え

    「ボーン・マン」ジョージ・C・チェスブロ - 海外ミステリ・レビュー
    tsurezurenarumama
    tsurezurenarumama 2021/08/22
    もう一つの"ボーン"の物語。面白そう!
  • 「航空救難隊」ジョン・ボール - 海外ミステリ・レビュー

    1966年発表の航空冒険小説の名作。シンプルなストーリーだが、その分密度が濃く、空に生きる男たちの熱い血潮が全編にわたり滾る。 カリブ海の孤島トレス・サントスに、かつてない規模のハリケーンが接近していた。ここを拠点とする民間航空会社のスタッフは、故障した大型プロペラ機を残してやむをえず島を出た。その頃、近海で墜落機の捜索にあたっていた民間航空巡察隊(CAP)の一機が、燃料切れで島に不時着。その際、プロペラを損傷し、飛行不能となる。まもなく、島の住民が助けを求めて、彼らがいる小さな飛行場に次々とやってきた。重い病気の者。全身大火傷を負った少女。トレス・サントスに医者はいない。CAPの二人は、不可解にも飛行場で羽を休めていた大型機を見る。彼らは単発機以外を操縦したことはなかった。だが、一刻を争う状況の病人を見捨てることなどできない。意を決した二人は、四発旅客機スーパー・コンステレーションへと乗

    「航空救難隊」ジョン・ボール - 海外ミステリ・レビュー
  • 「進撃の巨人」最終巻まで読んだ感想。「進撃の巨人」のここが好きだった。 - うさるの厨二病な読書日記

    「進撃の巨人」最終巻34巻を買った。読んだ。終わった。終わってしまった。 進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス) 作者:諫山創 講談社 Amazon こういう終わり方になるとは思わなかったし、最終回を読んだ直後は「こんなに綺麗に終わっていいのかな?」「現実的に考えたら、こんなに綺麗に終わるはずがない」とも思った。 でも今は「進撃の巨人」はこれでいいのかな、と思っている。 「進撃の巨人」には感じていることがたくさんあるが、そのうちのひとつが「話自体がいい奴」だ。 「進撃の巨人」の根底から伝わってくるのは、仲間思いで自分の弱さに悩んで、誰かを踏みつけなくてはいけない時も、滅茶苦茶葛藤して強い痛みを感じるような「何だかんだ言ってとってもいい奴な話」なのだ。 この辺りが最後の最後で自分とはちょっと合わなかった、と思うけれど、「進撃の巨人」は元々こういう話だった、という納得感はある。 「

    「進撃の巨人」最終巻まで読んだ感想。「進撃の巨人」のここが好きだった。 - うさるの厨二病な読書日記
    tsurezurenarumama
    tsurezurenarumama 2021/06/09
    ようし、1巻から読み直してから読むぞー!
  • 「最後の暗殺」デニス・キルコモンズ - 海外ミステリ・レビュー

    謀略の狭間で死闘を繰り広げるプロ対プロ。一方は引退間近のフリーランスの殺し屋、もう一方は引退同然だったMI6諜報員。どちらが先手を取り、より有効なダメージを与えるか。二人に共通するのは、些か錆び付いているとはいえ、時に鋭い光を放ち敵の眼を眩ます燻し銀の技倆に他ならない。1987年上梓、緊密な構成と至極のサスペンスが出色のスパイ・スリラー。 1968年4月4日、米国メンフィスで黒人指導者マーティン・ルーサー・キングは暗殺された。事件から20年後、真実を明かすという人物が突如現れる。その代理人となるジャーナリストのロイドは、不可解にも英国の報道機関にネタを売り込もうとしていた。同国諜報部は、狙いと真偽を探るため、休職中だったMI6工作員ピーター・レイシーを呼び戻す。記者を装いロイドに接触したレイシーは、キング暗殺の〝真犯人〟を名乗るラウルが滞在するスペインへと飛ぶ。 男の話は俄には信じられない

    「最後の暗殺」デニス・キルコモンズ - 海外ミステリ・レビュー
  • 「大統領専用機行方を断つ」ロバート・J・サーリング - 海外ミステリ・レビュー

    予測不能の展開が強烈なサスペンスを伴い読み手を翻弄する1967年発表作。 第37代合衆国大統領ジェレミー・ヘインズを乗せた大統領専用機が、静養先のパーム・スプリングスへ向かっていた。時は夜間、航空路は荒れ模様だった。機長は管制塔との交信で、雲上へと回避することを告げる。その直後、機影はレーダーから忽然と消えた。場所はアリゾナ山中。急遽大規模な捜索が始まるが、一帯は険しい山岳地のため困難を極めた。事故か、策謀か。いまだ国民にはケネディ暗殺の記憶は生々しく残っており、国内は騒然となる。 大統領専用機は奥深い渓谷に墜落していた。乗員乗客は全て死亡。爆発炎上による死体損傷が激しく、身元確認は困難を極めた。間もなく判明した不可解な事態に米国政府は慄然とする。大統領の遺体だけが発見できない。側近と共にヘインズが搭乗する姿は多くのマスコミ関係者によって視認されていた。専用機は、墜落するまで一度も着陸して

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  • 「最後に死すべき男」マイケル・ドブズ - 海外ミステリ・レビュー

    ナチス・ドイツ終焉を一人の男の冒険を通して鮮やかに刻印する傑作。 幕開けは現代。自らの死期が迫っていることを悟った英国外務省の元官僚キャゾレットは、今まで避けていたベルリンを初めて訪れた。彼は観光の途中、ふらりと立ち寄った骨董品店で思い掛けない物を見付ける。古びた写真。煤けた銀製の額縁には紛うことなき鉤十字の跡があった。硝子内の写真を取り除くと、下に隠されていた肖像が現れた。アドルフ・ヒトラー。独裁者は、或る人物に宛てた献辞を記していた。キャゾレットは激しく震え「なんということだ」と叫んだ。約半世紀を経て、明らかとなった驚愕の事実。甦る過去の記憶。「……あの男は、ほんとうにやってのけたのだ」 時は第二次大戦末期へと遡る。当時キャゾレットは、英国首相チャーチルの補佐官としてヨーロッパの戦いをつぶさに見ていた。連合軍は、あと一歩でライン川を越える所まで進撃、ナチス滅亡は時間の問題だった。既に、

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  • 「脱出せよ、ダブ!」クリストファー・ウッド - 海外ミステリ・レビュー

    1983年発表、冒険小説来の魅力を存分に味わえる隠れた名作。巻末解説で翻訳者佐和誠が熱を込めて述べている通り、作の〝主人公〟は、縦横無尽に活躍する単葉飛行機《ダブ》である。オーストリアで生まれ、第一次大戦でドイツの主力戦闘機となり、初めて空中戦を行ったという歴史的名機だ。翻訳文庫表紙には安田忠幸による装画で、その優美な姿が見事に表現されている。この装幀とタイトルだけでも、読むことを躊躇う冒険小説ファンなどいないだろう。「クラップタウべ」(折畳み鳩)と呼ばれた通り、全長15メートルの翼は畳むことができ、しかも組み立て式という秀れた機動性と機能性を持つ。このダブと出会い、ともに未曾有の冒険へと旅立つのは英国の若い軍人三人。舞台は西アフリカドイツ統治下のカメルーンで物語は始まる。 山岳地帯の敵陣地へ攻撃に向かっていた英国陸軍の分隊が、ドイツ軍の強襲を受けた。奇しくも生き残り、捕虜となった

    「脱出せよ、ダブ!」クリストファー・ウッド - 海外ミステリ・レビュー
  • 「死のドレスを花婿に」ピエール・ルメートル - 海外ミステリ・レビュー

    現代フランス・ミステリの底力を見せつけるルメートル。2009年発表の作でも繊細且つ大胆な仕掛けを施した超絶技巧が冴え渡り、暗い情念に満ちた濃密なノワールタッチの世界と相俟って読み手を魅了する。 ソフィー・デュゲは、悪夢から目覚め、現実の地獄へと戻る。膝の上には死んだ子ども、レオ。ベビーシッターとして世話をしていた6歳になる男の子だった。その首にはソフィーの紐が巻かれていた。レオの家に泊まり込んだ翌朝。まだ子どもが眠っていると信じたレオの母親が仕事に出掛けたのを見届け、自分のアパートへと戻る。身の回りの物を鞄に詰め込み、逃げ出す。行くあてなどない。銀行から有り金全部を引き出す。気を落ち着かせるためにカフェに立ち寄るが、目を離した隙に荷物を盗まれた。その場で知り合った女が好意をみせ、自宅へと招いてくれた。後刻。気付けば、その女が足元に横たわっている。刃物で滅多刺しにされた死体。またしても…

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  • 綾辻行人「囁きシリーズ」を久しぶりに続けて読んでみた感想。 - うさるの厨二病な読書日記

    突然読みたくなって、綾辻行人の「囁きシリーズ」三作、「緋色の囁き」「暗闇の囁き」「黄昏の囁き」を続けて読んでみた。 「緋色」と「暗闇」は犯人は覚えていて、細かいところは忘れていた。ほとんど初読のような気持ちで楽しめた。「黄昏」は未読。 ネタバレなし感想を書いてみた。 緋色の囁き (講談社文庫) 作者:綾辻 行人 発売日: 1997/11/14 メディア: 文庫 全寮制の女子高の話で、ほとんどの登場人物は女性。 女の子一人一人のキャラクター造形は単純化されているけれど、この年頃の女子同士の関係性や微妙な距離感、閉鎖的な空間の空気感がリアル。 世間から隔絶された暗く不気味な空間の雰囲気が楽しめる。 「囁きシリーズ」は、この雰囲気を楽しむためにストーリーが存在するととらえているので、その点では「緋色」が一番好き。個人的に「子供のみで閉鎖された暗い空間の話」に惹かれやすいというのもある。 寮で起こ

    綾辻行人「囁きシリーズ」を久しぶりに続けて読んでみた感想。 - うさるの厨二病な読書日記
  • 「鉄道探偵ハッチ」ロバート・キャンベル - 海外ミステリ・レビュー

    土砂降りの雨の中、暗い山の尾根を走る列車。シカゴ発、サンフランシスコ/オークランド行き「ゼファー号」に、ジェイク・ハッチは乗っていた。職業は、様々な犯罪やトラブルの解決に当たる鉄道探偵。今夜もひと仕事終えて、馴染みの女の家へ向かう途中だった。大半の乗客が眠っていた午前4時20分、非常ブレーキが引かれ列車が止まった。ハッチは車掌らと共に線路に降りて原因を探る。車輪の下で見つかったのは、腹から真っ二つに分断された男の上半身。身元を明らかにする持ち物はない。少し離れた場所に下半身があった。男が持っていた切符は、逆方向に向かう列車のものだった。探偵は乗員乗客に事情を説明し、捜査に移る。一方、死体は最寄りの駅へと運ばれ、検死へとまわされた。後刻、ハッチは検死医に状況を尋ね、返ってきた言葉に驚愕する。上半身は確かに男だが、下半身は女の体であると。つまり、あの現場で轢死体となったのは男と女、二人の人間だ

    「鉄道探偵ハッチ」ロバート・キャンベル - 海外ミステリ・レビュー
  • 「狼の時」ロバート・R・マキャモン - 海外ミステリ・レビュー

    1989年発表作。スパイ・スリラーとホラーをクロスオーバーさせた快作で、当時絶好調だったマキャモンがパワー全開で突っ走っている。 第二次大戦末期、連合軍はノルマンディー上陸作戦に向けた準備を秘密裏に進めていた。そんな中、ドイツ占領下のフランスに潜伏する英国スパイが重要な情報を掴んだ。起死回生の反撃に転じるためのナチスの極秘作戦らしいが、詳細は不明。諜報員は常時敵の監視下にあり、接触出来ない。この困難な任務を遂行できる者は限られていた。陸軍少佐マイケル・ガラティン。かつて北アフリカ戦線の攻守を逆転させる機密書類を敵陣から盗み出し、破竹の勢いにあった砂漠の狐ロンメルの牙を抜いた男。だが、ナチスに寝返った米国人の工作員サンドラーに愛人を殺されたことで、一戦を退いていた。マイケルは一旦渋るが、現地でサンドラーが暗躍していると知り承諾。己の身体を流れる〝狼の血〟が、復讐の機会を逃すはずはなかった。

    「狼の時」ロバート・R・マキャモン - 海外ミステリ・レビュー
    tsurezurenarumama
    tsurezurenarumama 2020/08/16
    スーパーヒーロー冒険小説だって!?読みたい。