旅行で訪れた異国の地で、現地の人びとと交流し、「こんな習慣があるのか」と驚いた経験が、みなさんにもあるかもしれません。たとえば挨拶ひとつとっても、ハグをされたりキスをされたりすると、日本で生まれ育った私などは、どぎまぎしてしまいます。そして翻って、挨拶は会釈が基本だと、私が当たり前に思って(思い込んで)いたのだと、気付かされます。このように、人は、自分の所属している集団の外に出なければ、自分自身について考え直すことが案外難しいものです。 では、日本人という集団ではなく、もっと広く、「人間という集団の外」はどこになるでしょう。その答えのひとつが、ヒト以外の霊長類です。なかでもチンパンジーは、遺伝的に最もヒトに近縁な種であるため、ヒトの進化の隣人として、多くの興味と注目を集めています。私はこれまで、合計で2年近く、アフリカに住む野生チンパンジーの集団を追いかけながら、「人間としての自分」を強く