「コーネルのソンタグに対する思いは本物だった」 本書のなかに、こんな意外な組み合わせの一節を見つけ、驚くひとも多いだろう。前者は本評伝の主人公にして「箱」の芸術家、ジョゼフ・コーネルだが、後者は二〇世紀の米国を代表する女性作家、スーザン・ソンタグのことだからだ。ほかにも本書では、有名無名を問わず、コーネルが思いを寄せた実に多くの女性たちが登場する。実際、かれは恋多き人だった。 ただし、大抵はどれも相手に届かぬ夢想で終わっている。コーネルは引き籠もりがちな性的不能者で、「夜になると、オーブンを点(つ)けてごく低い温度にし、自分の上半身をすっかり中に入れてしまう」ような、本物の変わり者だった。 反対に、美術史上でのコーネルは輝かしい存在で、作品の価値はまったく色あせていない。一九三〇年代から独自の作品づくりを始め、シュルレアリスム、抽象表現主義、ポップアートの隆盛と没落をくぐり抜け、次第に名声