20世紀初頭のサイレント期には、ラブ・ロマンスは優雅で洗練された古典的な風俗喜劇、コメディはコメディアンが転倒したりパイをぶつけあったりすることで笑いを誘うスラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)として製作されることが多かった[3]。 1920年代末期にトーキーが普及して会話によるジョークが可能になったことで、新しいコメディ映画への道が開かれる。またアメリカは1929年の株価大暴落を発端とする大不況時代に入り、娯楽への支出を抑制するようになった観客を引きつけるため、ハリウッドではひとときの慰安を確実に提供する作品ジャンルが求められていた[4]。 洗練された会話劇で最初に人気を集めたのはエルンスト・ルビッチ『極楽特急』(1932)である。この映画は富豪の未亡人とその財産をねらう男女の泥棒が主な登場人物で、三人の間のラブ・ロマンスがテンポのよいやりとりを通じて描かれる。この作品は翌年のルビ