「群像」十一月号に作者のインタヴューがあった。聞き手は武田将明である。 私は『すべて真夜中の恋人たち』の主人公冬子を「たんにつまらない、何にも無い人」だと書いた。それがこの小説の要だと思ったのだ。川上未映子が語りだすのはまづこの点であり、自分の読みが正しかったようで、ちょっとうれしい。彼女は言う、通常の小説では、「美人であるとか、美人でなくても母であるとか、特殊な能力を持っているとか」、そんな「物語に登場するための条件が課せられている」。冬子のような「何にもひっかからない人は主役になれないんですね」。『すべて真夜中の恋人たち』を書いた動機のひとつとして、「物語を奪われ、また物語から奪われてきた、今まで語られなかった人たちを小説的に語る」ことを挙げている。それに合わせて武田が、冬子の職業が校閲者であることと関連させ、「そこに書かれている物語を読んではいけない」ということを心がけている点を指摘