手を伸ばせば届く距離、 だけれども手を伸ばすことを恐れていた。 触れてしまったら最後、 そのぬくもりを失う恐怖に包まれてしまう。 冷たくて、 辛くて、 苦しくて、 だから少しだけ手を伸ばしてみる。 暗くて寒い木陰から、 恐る恐る手を伸ばしてみる。 指先が少しだけ木漏れ日に触れた。 じわりと伝わる温もり、 その魔力に心を奪われて、 今度はグッと手を伸ばす。 「どうやら大丈夫みたい」 そのぬくもりに体を預けてみることにした。 冷え切った心と体、 それを芯まで温めてくれる。 「もう大丈夫」 心から安心して光の中に飛び込む。 やがてそのぬくもりが当たり前になって、 それを守る努力をしなくなる。 そうすると、 徐々にぬくもりは失われていく。 足先から徐々に冷えてくる。 心まで到達するのは時間の問題だ。 「どうやら時間切れみたい」 また暗闇の中、 かろうじて見えるのは自分の足元だけ、 あのぬくもりが恋