唐突ですが、村上春樹の『羊をめぐる冒険』をお読みになったことがありますか? 僕が高校2年の夏、書店で聞き慣れない名前の作家の小説が並びました。目立つ場所に置かれたワゴンに平積みされていた記憶がありますから、出版した講談社も力が入っていたんでしょうね。まったくの新人作家の処女作だったのに。 それが、村上春樹の『風の歌を聴け』でした。何気なく購入した僕は、読み始めて強烈なショックを受けました。それは、それまでに読んだどんな小説とも、まったく違っていたからです。僕は本当に夢中になり、何度も何度も読み返しました。“これは僕のための小説だ”とまで思いました。それが僕の最初の村上春樹体験。 『風の歌を聴け』は、主人公の“僕”と親友の“鼠”との物語ですが、その基本的性格は第2作の『1973年のピンボール』、そして第3作の『羊をめぐる冒険』へと、そのまま引き継がれていきます。この3作を“僕と鼠三部作”と呼