複雑な物語、8K的描写、長い!……けど面白い! 矢部太郎 世界的巨匠にして謎の作家トマス・ピンチョンが、9・11同時多発テロが起こった2001年のニューヨークを描いた超話題作について、ピンチョン・ファンのお二人にご寄稿いただきました。 対象書籍名:『ブリーディング・エッジ』(トマス・ピンチョン全小説) 対象著者:トマス・ピンチョン/佐藤良明・栩木玲子訳 対象書籍ISBN:978-4-10-537214-9 『ブリーディング・エッジ』はピンチョンが76歳の時に発表された作品です。 76歳といえば縁側で日向ぼっこするおじいさん、庭に来る小鳥を愛でたり、かんたんスマホで撮った寒椿の写真を孫に見せて微妙な反応をされたり......と、いわゆる「静」のイメージを想像してしまうものですが、『ブリーディング・エッジ』は前記のようなイメージの年齢の方が書いた物とは思えないようなパワフルさに溢れています。