今村仁司の死の約2ヵ月後に遺著『社会性の哲学』(岩波書店)が刊行された。この著作で今村はその思想者としての歩みの柱であった暴力と贈与の問題を改めて論じている。 今村の社会哲学的思考においては、「なぜ社会は存在するのか」「いかにして社会は生成するのか」という、それ自体としては実証的に記述することの不可能な問いの境位がつねに根本的なモティーフとなっていた。そのとき今村の問題意識を支えていたのは、一見静止的に対象化=実体化されているように見える社会の下層には、その表層次元の静止作用によって見えなくされてしまっている流動的・力動的な葛藤や闘争の契機が隠されているという認識だった。そうした認識を踏まえ、今村は歴史の表層の下方へと埋もれてしまって見えなくなってしまったアルカイックな根源の領域に迫ろうとしたのである。 そこで見えてきたのは、暴力と贈与の契機がからみあいながら対象化=実体化された社会的実定