辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。 「絆(きずな)」については、このコラムの第364回で一度書いたことがある。そこでは、「絆」と結合して使われることが多い動詞は、「深まる」「深める」か、あるいは「強まる」「強める」かということについて考察した。詳しくはそのコラムをお読みいただきたい。 その中で、「絆」は、今でこそ人と人との断つことのできない結びつきの意味で使われているが、もともとは馬、犬、鷹(たか)などの動物をつなぎとめる綱のことだったとも書いた。 たとえば、平安末期の歌謡集『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』には、次のような歌がある。 「御厩(みまや)の隅(すみ)なる飼ひ猿は絆離れてさぞ遊ぶ」(353) お馬小屋の隅にいる飼い猿は、綱を離れて(うれしそうに)遊んでいる、という意味で、これが「き