フィクションでも研究機関や大学はよく登場しますが、博士の性格や展開が似たり寄ったりで飽きてませんか? 数オリ金メダルの筆者と、授賞会場や学会で出会った愉快な仲間・教授たちがつなぐ数学界の物語は、現在まさに進行中。 オックスフォード大学への留学を機に、数学界のノーベル賞ともいわれるフィールズ賞候補の若者たちの群雄劇が今始まります。
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1. 三河 美香梨(みかわ みかり)が騙されたと気が付いたのは、22歳のときでした。いつから騙されていたかと言うと、14歳のときからです。 美香梨は福岡県 北九州市の山奥の村で生まれました。実家は一粒何千円のレベルのイチゴを育てる農家です。森と川だけが遊び場で、小さい頃は森を駆けずり回って虫を捕まえて、汗だくになった体で川に飛び込んでサッパリご機嫌になって帰宅したものです。けれども14歳になってスマートフォンを手に入れると、地元のすべてが東京に生きる若者たちには見劣りするようになりました。インスタに毎日のように上がる誰かの自撮りは、異世界のお姫様のように見えました。何万人というファンを抱えるインフルエンサーたちの大ゲンカは、神々の戦いです。泥沼のゴシップすら、キラキラと見えました。ハロウィンの日には渋谷のスクランブル交差点を定点カメラで眺めて、ここに加わりたいと強く祈ったものです。 やがて
1980年代~2010年代まで日本のミステリ小説界でブームを巻き起こした「叙述トリック」とは一体何だったのか。その起源と系譜をたどろうとする文章です。 【!!! 注意 !!!】 この文章では、その内容の特性上、予告なしに「『●●』という作品には叙述トリックが使われている」などと言及することが多々あります。お読みいただく場合は、その旨、ご了承ください。 【目次(予定)】 第1章 はじめに 第2章 叙述トリックはどのように語られてきたか 第3章 本稿で参照するモデル 第4章 一人称・手記・信頼できない語り手 第5章 三人称・映画・モンタージュ 第6章 メタフィクション・作中作・パラテクスト 第7章 サプライズ・ネタバレ・インターネット 結語
「田中はやめたほうがいいです」 編集のO田川氏は開口一番にそう言った。都内某所の喫茶店で「魔法少女探偵アガサちゃん」の次話ネームを見せていた時だった。 「月刊少年ボウイ」のO田川氏はもう5年も僕の漫画を担当していて、それなりの信頼関係ができている。社交辞令的な褒め言葉は省いて単刀直入に打ち合わせを進めよう、というのが暗黙の了解だ。最近はネームを見せる前からO田川氏が不満を言いそうな点が予想できてしまうので、何を言われても大したダメージはない。だが、今回は一瞬コメントの意味がわからなかった。 「は? 田中?」 「この容疑者の女性、ホラ、田中久美恵さんって書いてるですか。名前、変えたほうがいいです」 「……ああ、それですね」 「魔法少女探偵アガサちゃん」は、コミカルな女子中学生が魔法で事件を解決するミステリ漫画。今回は温泉回だ。露天風呂で宿泊客の遺体が発見され、警察は火山ガスによる事故だと判断
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