実朝は台所の足をからめて、ふくよかな肉体を愛撫していた。彼の深い渇きを癒すかのように、女の体に手を這わせていく。実朝が、性愛の喜びというものをしみじみと知ったのは、この二、三年のことだった。実朝の心のなかには、いつも虚無がその暗い淵をのぞかせている。呑み込まれていきそうな深い虚無だ。性愛はつかの間、その淵から彼を遠ざけていくことでもあった。 「このところ、殿はうれしそうですね」 「そのように見えるか」 「いつもと違って、なにか心がうきうきしているようにみえます」 「そうか。そのようにみえるのか」 「殿はとても正直ですもの。喜びや悲しみが、すぐにお顔にあらわれます」 「夫婦とはおそろしいものだな」 実朝が十二歳で将軍に就いたときから、周囲では誰を台所にするかで猛烈な運動が繰り広げられた。将軍夫人に誰を送り込むかで、権力の構図が大きく変わっていくのである。水面下で展開される、そのはげしい争いの