ナボコフの作品は短篇、長篇にかかわらずいずれも大好きだけれども、もっとも鍾愛する作品はといえば、まず『記憶よ、語れ』に指を屈する。はじめてナボコフの作品にふれたのが十代の終わり、英語の授業で読んだFirst Loveだった。大津栄一郎注釈のFIRST LOVE AND OTHER STORIESの冒頭に収められている短篇で、そこに登場するフランス人の女の子の名前Colletteを題名に「ニューヨーカー」に発表され、のちにSpeak Memoryの第七章に組み込まれた(Nabokov's DozenにはFirst Loveのタイトルで収録されている)。First Loveを読んだのは、大津栄一郎の翻訳『ナボコフ自伝 記憶よ、語れ』が刊行されるずっと前で、覚束ない語学力で辞書を引き引き一行ずつ辿っていったことを今でもよくおぼえている。鉛筆で訳語の書き込みのある南雲堂のテキストは幾たびかの引越し