救急車のサイレンが遠ざかっている。遠ざかるサイレンの中で「権力」と「暴力」の不穏な依存関係について書かれた書を開いた。 <権力>はつねに、暴力という汚れた斑点のようなものに支えられていなくてはならない。(略)<軍隊>、<教会>、家族、その他すべての「政治的ならざる」社会組織のなかにおいて、暴力が容認され、有無を言わせぬ従属関係を強いられている様態は、それ自身が何らかの倫理的―政治的な抗争とその結果を「具現化」したものなのである――批判的な分析作業は、これらすべての「政治的ならざる」ないしは「未だ政治に至らぬ」ものの関係を背後から支える見えざる政治権力の働きを、はっきりと識別する必要があるのだ。 こういうことだ。「政治的ならざる」軍隊や教会、学校にある暴力は、そのまま政治的な権力の行使ではないが、その政治的な権力を補完する暴力をそっくりに例示している。「例示」とはなにか。権力へのひめやかな欲