歌之介が師匠の形見分けでもらった遺品の中に、高価な物が2つあった。ひとつはクリソベリル・キャッツアイの指輪である。 「私の指に合うように、宝石屋さんでリングを継ぎ足して広げてもらいました。『クリーニングはしてますか』と聞かれたんで、『師匠が時々台所でママレモンで洗ってました』と答えたら笑われました。今では私の指にはまるようになってます。博多の料理屋のカウンターで、その指輪をはめて飲んでたら、近くにいた顔の怖いその筋の方が目ざとく見つけて、『いい指輪はめてるね』とうらやましげに眺めてる。隣に愛人の女性がいて、彼女に見せてやってくれと頼まれたので指輪を渡すと、彼女がはめて、『あたしにピッタリ』だって。慌てて取り返しました」 もうひとつの高級品は時計だった。 「スイス製のオーデマ・ピゲです。晩年、師匠が愛用していた物で、高座に上がる前に、『持ってろ』と指輪と一緒に渡されると、楽屋の師匠方に、『な