まだ小学校に上がる前の小さな子供の頃、僕にとって海とは夏に帰省する父親の田舎の海だった。 遠州灘に面した小さな集落から歩いていけるその浜辺には海水浴をする人もなくただただ広い砂浜と波の荒い大きな海だけが広がっていた。 スポンサーリンク その頃の僕は泳ぎを知らなかったしその海は潮の流れが速くて大人でも容易に流されてしまう怖い場所なのだと散々言い聞かされていた。 そんなわけであの海で泳いだ記憶は全くない上に海ってのは怖いのだという記憶の刷り込み効果で未だに海は危険って無意識に思っているから三つ子の魂百まで。 それでも幼い頃の記憶として鮮明に残っているのは草いきれに包まれた田舎道を抜けて防砂林の松林が夏の日差しに焼ける匂いを嗅ぎながらふうふうと登りきった砂丘の先に広がる海のきらめきと潮の香りでそれは今でも時々夢に出てくるほどだ。 海とはそういうものだと思っていた。 子供の頃の夏のある日両親が喧嘩