ブルガリアン・ヴォイスが織り成すハーモニーの歴史 生の声の中に錯覚的にデジタルな質感が聴こえる響きの奇妙さ Text by 柳樂光隆 ブルガリアン・ヴォイス(Bulgarian Voices)はその名前の通りに、ヨーロッパの国ブルガリアで歌われている民族音楽で、歌ものの合唱音楽だ。 このブルガリアン・ヴォイスを説明するのにとてもわかりやすい映画がある。それは今年、日本でも公開されたパヴェウ・パヴリコフスキ監督による映画『COLD WAR あの歌、2つの心』。ブルガリアではなく、東ヨーロッパの北側に位置するポーランドが舞台だが、そのストーリーは実に興味深く、ブルガリアン・ヴォイスと繋がっている。 『COLD WAR』の舞台は1940年代からの東西冷戦直前のポーランドから始まり、主に冷戦下のソ連の支配下に置かれたポーランドと、亡命先のパリ。クラシックやジャズに精通したピアニストで作曲家の主人公