20年前の話である。大学生A君が、昏睡状態でHCU※に入室し、希望で母親が付き添うようになった。母親は大学まで出向き友人の声を週替わりで録音し、毎日耳元で聞かせた。また自らも廊下に響き渡る声で明るく語りかけていた。母親の愛情の深さ、信念を感じさせる日々であった。私も同じ気持ちで関わったが、母親のそれには到底かなわなかった。しかし、どんな刺激に対してもA君からの反応はなく、人工呼吸器の音だけが病室に響いた。 数カ月同じ状態が続いた。ふと、なんとなく分かっているのではないか…という印象を受けた。医師に報告し、脳波も取ってみたが、結果に変化はなかった。あきらめようとするが、やはり何かある。しかし、周囲は気のせいだと言って取り合ってくれなかった。それでも私は母親と共に信じ、毎日刺激し、その「何か」を明らかにしようとした。 ある日母親が、「この子アイスクリームが大好きだったのよね…」とポツリと言っ
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