秋めいてきたころだったか、電車賃をけちった僕はかれこれ三十分くらい歩いていた。まだまだ先は長い。それで節約できるのはたったの数百円である。川向うに見える高層ビルのイルミネーションを横目に、永代橋を渡り終えた。 木陰に隠れたような、それでいてかえって注目を集めそうな公衆トイレは目に入るだけでいつも無視していた。利用することはこの先もないだろう。橋をわたってすぐの横断歩道を横切ったところで声をかけられた。 あたりが暗かったので、はっきりとしたことはわからなかったが、四十かそこらの男性、僕より明らかに年嵩のように思えた。平日に、Tシャツの上から羽織ったカジュアルなシャツで、もちろん裾はジーンズの外に出し、ヘアスタイルもわりとこざっぱりした感じ。ごくふつうの格好だった。彼はお金をなくしてしまった、と言った。 そして、電車賃を貸してもらえないだろうか、と。 貸して? 先を急いでいるところを呼び止めら