日本では明治大正期からロシア文学の翻訳は根強い人気を誇ってきた。1892年に内田魯庵が『罪と罰』の翻訳(英語からの重訳)を発表して以来、『罪と罰』だけで無数の邦訳が生み出され、日本文学にも大きな影響を与えてきた。近年は明治大正期の翻訳についても研究が盛んになりつつあるが(加藤百合『明治期露西亜文学翻訳論攷』、蓜島亘『ロシア文学翻訳者列伝』など)、本稿では21世紀、とくにここ10年間におけるロシア文学の日本での読まれ方について見てゆくことにしたい。 亀山訳『カラマーゾフの兄弟』のヒット (左)亀山郁夫訳による光文社古典新訳文庫版『カラマーゾフの兄弟』、(右)藤沼貴訳による岩波文庫版『戦争と平和』 21世紀におけるロシア文学の読まれ方=受容を考えるうえではずせないのが、亀山郁夫訳による光文社古典新訳文庫版『カラマーゾフの兄弟』ブームだろう。 亀山郁夫による『カラマーゾフの兄弟』の第一巻が、光