「そやからな、バレタインなんか大嫌いやねん!」 「だから、嫌いになるには理由があるはずです。それを聞きたいと言っている」 「う〜ん、理由なぁ。なんか、バレンタインってだけで、儀式的にそない好きでもない人に渡したりするヤツおるやん。なんかそういうのが嫌い。そもそも、バレンタインなんか嫌いな男の方が多いんちゃうんか?知らんけど」 「出た!関西人の『知らんけど』。その無責任な発言なんとかなりませんか?言ったなら、その根拠を示すべきだ」 「あーもう!鬱陶しいな!」 目の前の男に苛立ちを隠せずにいるこの男は吉竹歩霧よしたけあゆむ、大阪の中学校に通う、中学2年生だ。 「鬱陶しがる理由がわからない。僕は当然のことを言っているだけだ。先ほどの説明では不十分です。嫌いな理由は?」 そう言ってメガネをクイっと持ちあげた歩霧と向かい合っている男が、同級生の橘理人たちばなりひと。 東京生まれの東京育ち。生粋の江戸