いよいよ明日だ。そう思うと眠れなかった。 眠ろうと思うほど目が冴える、不思議な緊張状態。故郷に残してきた妻や子供たちの笑顔が目を閉じると瞼の裏に映し出される。自分が生まれ育って、これからもそこで生きていくと疑わなかった故郷の、土や、緑や、空が、鮮やかな色で彼らの背景を彩っている。 小さいころはよくあの林で虫取りをしたことを思い出す。隣の家のケンちゃんと競争をして、オレはいつも勝てなかった。あの川で毎年夏になると泳いだ。あの時、大好きだったアキちゃんと一緒に夏祭りへ行けたのは、一生の思い出だった。オレはあの空しか知らなかった。あの町がオレのすべてだった。あの町で大人になって、恋をして、結婚して、子供もできた。オレの子供たちだって、あの町で生きていく。タカシ、サトミ。もう二度と会えないかもしれないけど、絶対に守らなければいけないんだと、何度も何度も繰り返し思った。 「どうして」という問いも何度