謎解きの興味を軸にした本格ミステリーにとって、その舞台が"現実世界"である必要はない。ルールを構築・説明したうえで"異世界"の事件を扱うことは、極めてユニークな謎解きの創造にも通じている。アイザック・アシモフが『鋼鉄都市』にロボット刑事を登場させ、ランドル・ギャレットが『魔術師が多すぎる』で魔法世界を描いたように――あるいは山口雅也が『生ける屍の死』で死者を蘇生させ、西澤保彦が『七回死んだ男』で時間をループさせたように、SFやファンタジーの設定はミステリーにも適用できる。著者の力量は問われるにせよ、これは多彩な面白さを融合させうる技法に違いないのだ。 上遠野浩平のジャンル横断 上遠野浩平は1968年千葉県生まれ(神奈川県育ち)。法政大学第二経済学部を卒業後、ビル整備会社を短期間で退職し、1997年に『ブギーポップは笑わない』で第4回電撃ゲーム小説大賞を受賞してデビュー。青春小説の香気を備え