「愛日家」として知られ昨年7月に亡くなった蔡焜燦氏には、政治犯として投獄されたことがある実弟・蔡焜霖氏がいる。焜霖氏もまた「愛日家」であり、焜燦氏とはまた別の形で日台交流に大きく貢献してきた。 焜霖氏はこれまで台湾でも日本国内でも「元政治犯」の文脈で紹介されてきた。しかし彼はもう一つ別の顔がある。それは台湾における日本大衆文化受容の基礎を作った人物としてだ。彼はかつて日本の漫画を台湾にせっせと紹介してきたが、それが今日、台湾の若者層における日本の漫画やアニメの浸透につながり、台湾の若者層における「親日」要因の一つを形づくった、と言える。 幼少期の体験がきっかけに筆者がそれを知ったのは、台湾の漫画史を紹介するある展覧会でのことだった。彼とは人権イベントなどの場で何度かお会いしたことがある筆者は、「あの焜燦氏の弟は、実は漫画受容史においても重要人物だったのか」と驚嘆した。 焜霖氏は1930年、