台所に興味がある。 食べものが生まれる場所だから……でもあるけれど、ひとが、ものを考える場所だからでもある。 そこで働くひとは、手もとを見ながら(そして、たまにふとそこから目を逸らしながら)、考える。その日あったことも考えるし、ずーっと前にあったことも考える。まだ起こらないことについて思いめぐらしたり、起こりっこないようなことを想像したりもする。 考えがこんがらかると、妙においしくないものができ上がったりして、困惑する。おいしくならなかった理由を、つくった本人は、わかる。 あのとき浮かんだ妄想が、過分な辛みを加えさせたな、とか。辛い記憶が、混ぜこむべきでない材料を混ぜこませたな、とわかるのである。そうとうにいい線いっていた食べもののさいごのさいごに、あとから「入れなければよかった」と後悔するようなものを投げこんだときなどは、もう、二度といらないことは考えないことにしよう、料理に集中しようと