『中動態の世界』がひらく臨床 ――臨床と人文知をめぐる議論が再び活発化することを期待したい 評者:松本卓也 ■國分功一郎が今春上梓した『中動態の世界――意志と責任の考古学』は、充実した哲学書であるとともに、きわめて臨床的な書物である。プロローグからして臨床の話題から始まる本書は、「しっかりとした意志をもって、努力して『もう二度とクスリはやらないようにする』って思ってるとやめられない」(4頁)という言葉――薬物・アルコール依存をもつ女性をサポートする「ダルク女性ハウス」の代表である上岡陽江が述べたと思われる――がもつ深い意味を解明するという情熱によって駆動されている。 実際、著者が指摘するように、依存症は、近代的主体がもつとされる「意志」や「責任」という概念ではうまく取り扱うことができない(329頁)。「薬をやめたいのなら、自分の意志の力で努力してやめればよいではないか。それができないのなら