こんな話を聞いたことがある。我々がイルカだと思っている生き物は、実はイルカではない。例えばそれは、トンボにとってのヤゴ。カエルにとってのオタマジャクシ。つまり、彼らはイルカの幼生に過ぎないのだ。成体となったイルカを、我々が眼にすることがない理由はシンプルなものだ。彼らは我々よりもはるかに高次の領域にあるため、人間ごときはその存在を知覚することさえできないのだ。 説得力はまるでないが、どこか信じてみたいと思わせる魅力を持った話だ。もしかすると、普段はさえないリーマンとして暮らしている僕も、実はまだ幼生なのかもしれない。そんなことを考えてしまう。いつか成体となったあかつきには、僕も四次元の海でほんとうのイルカと遊ぶことができるのかもしれない。 しかし、おかしなことに、生まれてからもう二十数年の年月が流れているというのに、いっこうに成体へと変態する兆しがない。ただ、順調に顔が老けてゆくだけである