妻が入院中は毎日、手紙を書いて病室に届けていた。手紙を読む数分間だけでも病気を忘れてほしかったからだ。「手紙をもらって自分が認められたことに安心した」「ミツルの私に対する気持ちが伝わって幸せや」と妻は喜んでくれた。でも一度だけ、その手紙で妻を怒らせた。 ある朝病院に行くと、不機嫌な顔をして押し黙っている。 「きのうの手紙に『前向きに』って書いてあって、なぜそんな酷なことを言うのと思った。気持ちをやりくりするのに精いっぱいなのに」 「目標を持つとか、後悔ないように……というのもわかるけど、友達が思ってくれて、好きな人と好きなものを食べられたら私は後悔しない。前向きとか言われると、しんどいとか痛いとか言いにくくなっちゃう」 妻はそう言った。僕は頭を垂れるだけだった。 余命宣告を受けて葬式の話を始めた妻 痛みがおさまり一度は退院したが、腹痛やせきが悪化して再入院した。免疫チェックポイント阻害薬の