私事で恐縮だが、筆者は1970年代末から1980年代末にかけての10年間を、大手電機メーカーの宣伝部のサラリーマンとして過ごした。 当時の広告業界には、今みたいに「情報セキュリティ」とか「コンプライアンス」とかいったややこしい言葉はなかったから、広告代理店の営業は、朝から得意先の宣伝部のオフィスにズカズカ入って来て、宣伝部員に片端から「お茶でも、どうです?」と声をかけ、近くの喫茶店に誘っていった。 そんなとき、電通の営業が誘うのは、部長か部長代理ばかり。下に行ってもせいぜい30歳の主任止まりで、ボクらのような決裁権のない20代前半のペーペーの平社員や、窓際族の爺さんは絶対に誘われない。そういう様子を、ボクは苦々しい思いで眺めていた。 『電通・鬼十則』の第三則に、「大きな仕事と取り組め、小さな仕事は己れを小さくする」とあるが、どうせボクなんか「小さな仕事」の部類だよ、とひがんだりもして