晶太が通い始めた書道教室は、墨汁と筆ペンを使わない方針のせいか、あまり流行っていなかった。 学童クラスはさっぱりだが、成人クラスの継続的な「生徒さん」たちのおかげで成り立っているのだ、と師匠は言っている。 祝儀袋や不祝儀袋に書く名前くらいは上手に筆書きしたい、という動機で入門し、丁寧に磨った墨で名前の字を練習していくうち、書道に心の安らぎを見出した人たちだ。教室へ来る前は、なかなか思いどおりに書くことができない自分の名前を好きになれなかったという人もいた。 師匠の短めに生やした髭は、黒と白の混ざりぐあいが、いぶし銀のような色に見える。晶太はひそかに「銀ひげさん」と呼んでいた。 書道の師範は師匠の本業ではあるけれど、仮の姿でもあった。 銀ひげ師匠の正体は魔法使い。晶太は書道ではなく、魔法の方の弟子なのだ。 幼いころから晶太は、人が嘘をつくとすぐに気づいた。だまそう、ごまかそうとする嘘から、悪