ブックマーク / animestyle.jp (10)

  • 第137回 笑わず、背を丸める | WEBアニメスタイル

    完成した『アリーテ姫』の上映をいかにして確保してゆくかというプロデューサー・サイドの営業の戦いの中で、試写を見てもらった小屋主さんから、 「あの主人公がまるで笑わないことについて、もっと真剣に考え直すべきだ」 というようなことをいわれた局面もあってしまったらしい。 実際には、制作の中期頃までは片方で『ちびまる子ちゃん』をやりつつ並行して作っていたわけでもあり、そのひとつ前の時期には『ちびまる子ちゃん』『あずきちゃん』を並べて仕事していたのであり、「観客をいかにくすぐって笑いを得るか」という仕事上のテーマはちゃんと掲げていたのだった。 けれど、くすっと思わず笑ってしまうというわずかなゆとりすら忍び込む余地も見いだせないの谷間も存在してしまうわけで、『アリーテ姫』の上での表現は、そうした谷間に落ち込んでしまった人に、より切実によりそおうとした結果なのであった。そうした傾向が一般に向けた普遍的

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  • 第135回 ハンガリーの双子 | WEBアニメスタイル

    やって来たナムコの2人は、 「突然、おもしろそうだったんで、のぞきに行かせてください、と4℃を訪れさせてもらって、おもしろそうだったので仕事もお願いしようかな、とやってきました」 と、フレキシブルな感じも若々しい好青年たちだった。 「僕らが作ろうとしてるのは、戦闘機のゲームなんですが」 その何面ごとかに、クリアすると画面に現れるムービー・パートについての依頼であるらしい。 といわれても、レーダーとミサイルと超音速で戦う現代的な戦闘機なんてまったく自分のイメージの外のものし、たいへんそうだし、といいかけると、 「あ、ちょっと待ってください。話の順番が後先になりました。ここ、ビデオ見れますか?」 と、持参したVHSテープを、ここの打ち合わせスペースのビデオデッキに入れた。 「フランスの映画で『ラ・ジュテ』っていうんですけど。短編で。『12モンキーズ』の元ネタになったやつです」 「『12モンキー

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  • 最終回 そしてここへ至る道のり | WEBアニメスタイル

    「エースコンバット5」の脚仕事が、完全に自宅での作業となったのは、いくつか考えた『アリーテ姫』の次回作企画が軒並み座礁してしまっていたからだった。実は結構な数の企画を出していたのだが、どうしたことかその全部がうまく実らなかった。 ものづくりするものの道には色々あるのだが、自分はどちらかといえば寡作なのだから、これから作るものもこれまでと同じひと色の中なのだろうと見られてしまいがちなところがあった。次に作るものは明らかに『アリーテ姫』とは違った色合いを目指したいと思っていたし、ここで「エースコンバット5」ではことさらに『アリーテ姫』とも「エースコンバット04」とも違う道を辿ってみたかったし、そうするべきだと思っていた。 こちらで構成表を書いては、メールでナムコの取りまとめ役である河野さんに送り、それに対してナムコのスタッフたちの意見が投げ込まれたものが送り返されてくる。それを眺めながら、

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  • 103 『この世界の片隅に』絵コンテについて | WEBアニメスタイル

    『この世界の片隅に』を多くの方が劇場でご覧になっているようです。公開後も評判は上々。当によかったです。このまま大ヒット作となる事を祈っています。 今回はアニメスタイルが編集をお手伝いした「この世界の片隅に 劇場アニメ絵コンテ集」について、少し書いておきます。 お気づきの方もいると思いますが、この絵コンテのサイズはちょっと変わっています。A5サイズのと比べてもらうと分かりやすいですが、通常のA5よりも縦が少し短くて、横が少しだけ長い。絵コンテを読みやすいかたちでページに収めるために、色々と調整してたどりついたサイズです。これはデザインをお願いした井上則人さんのアイデアです。 カバーの下の書籍体の表紙デザインも、なかなかかっこいいですよ。絵コンテらしい、そして、『この世界の片隅に』らしい、真面目なテイスト。しかも、重厚さもあります。これについては、僕からオーダーは出してはおらず、井上

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  • 第95回 絵コンテ | WEBアニメスタイル

    これまでに絵コンテをどれくらい切ってきたのだろうか。 ずっと昔、まだ絵コンテなんか任されるには早すぎる時期だった『名探偵ホームズ』の頃、 「そのうちコンテも切らせてやる」 という宮崎さんの言葉にその気になってしまって、自分の机に絵コンテ用紙をもってきて、勝手に切り始めてしまったことがあった。練習のつもりでもあったし、できあがることがあったとして、それまでには相当の時間もかかってしまうだろうと思ったので、シリーズ構成上でかなり先の話数ということにこれまた勝手に決めてしまった。 『名探偵ホームズ』があのまま進んでいたら、シリーズ後半ではモリアーティ教授がベーカー街221Bのとなりに引っ越してくることになっていたので、いきなり隣に住んでいるモリアーティから描き始めたりしてしまった。 「おっかないことやってんな」 と、宮崎さんに呆れられ、 「練習です、練習。いたずらみたいなもの」 と言い訳したが、

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  • 1300日の記録[片渕須直] | WEBアニメスタイル

    1960年8月10日生まれ。演出家。日大学芸術学部卒。大学在学中、『名探偵ホームズ』の脚に参加。その後『NEMO』プロジェクトに演出の補佐役として携わる。『名犬ラッシー』で監督デビュー。代表作に『BLACK LAGOON』、劇場『アリーテ姫』、劇場『マイマイ新子と千年の魔法』等。

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  • 第138回 「エースコンバット5」の場合 | WEBアニメスタイル

    もう一度「エースコンバット」にはお世話になる。 その頃は、次回作の企画が何も動かず膠着状態に入ってしまった4℃を引き上げて、自宅で仕事をしていた時期だった。そこへ、ナムコから電話をもらった。また「AC04」のときのような幕間映像をひっそり作るのだったら楽しいな、などと思いつつ電話に出てみると、少し勝手が変わっているようだった。 今度の幕間映像は3DCGで作る。その演出も映像制作もナムコ社内でやりたい。片渕さんにお願いしたいのは—— それは、ゲーム全体のシナリオの作成だった。ストーリーの根を組むところからそれは始まるのだが、ゲームの中でのストーリーの進行はほぼ台詞で表現されることになる。必要に応じて、ムービーで展開するパートも作れることは作れる。だが、全長何時間になるのかわからない、その膨大な時間で展開される物語をつむぎだすのは、台詞表現に相当部分を担わせることになる。 新しいゲーム「エー

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  • 第136回 「黄色の13」の正体 | WEBアニメスタイル

    この仕事、「エースコンバット04 シャッタードスカイ」のわれわれが担当したサイドストーリー・パートで作画監督を務めることになる浦谷千恵さんは、要するにうちの奥さんなのだが、もともとは望月三起也『ワイルド7』なんかが好きで絵を描き始めたらしく、一緒になる前から「子連れ狼」なども棚に並べていたので、おもしろく読ませてもらったりした。「子連れ狼」というと、ごくあたりまえにささやかな幸福もある暮らしの中にあった武士が、預かり知らぬ渦の中でそれらすべてを奪われ、復讐のための二川白道を歩く羽目になる、というストーリーである。それはエンタテイメント的な常道でもあるようだけれど、アリーテ姫が目指した「自己実現の岸辺」の対岸を指しているようでもあり、それがもっともあからさまな姿をとるのが、災害だとか戦争なのだとも思う。むしろ、「自己実現はかならずもたらされるんだよ」ということ以上に「非業」は現実的なのだと

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  • 第115回 得られてきたいくつかの結果 | WEBアニメスタイル

    2015年3月9日(月)午前11時を持ってスタートしたクラウドファンディングは、81日間のスケジュールのうちまだ最初の1週間が過ぎたところなのだが、ひじょうにありがたい経過をたどっている。これについては、なるべく早い時期に、製作委員会と監督との連名でメッセージを出せるように図っているところであり、このクラウドファンディングについていただいたいろいろなご質問にもその場をお借りして応えられることになるのだと思う。 いましばらくお待ちください。 広島方面の識者の方から、 「レイアウトに描かれている海苔作りの梯子が6段になっているが、ほんとうは7段のはず」 というご指摘をいただいた。 実は、わかっていつつ手抜きをしてしまっていた。パースをつけて作画する都合上、「7等分」というのがやっかいなので、まだしもの「6等分」にしてしまっていたのだ。 ご指摘いただいて、やっぱりごまかしたらいかんなあ、と我々も

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  • 第52回 「海死ね」灯台と、「それでもここが好き」駅 | WEBアニメスタイル

    『マイマイ新子』のときに応援していただいたマンガ家の青木俊直さんが毎日「あま絵」を描くようになって、たちまちBNF(Big Name Fan)として時の人になっていってしまったのだが、青木さんに転機があったとすれば26話、少女たちが手をつないで走る場面だったのじゃないかと思う。それまで落書き程度だった青木さんの絵は、その直後から急速に「作品」化していった。同じく女の子たちが手をつないで走る場面を描いた自分としては、ああなるほどと思ったのだった。 自分自身これはいいなあと思ったのは、第5話の深刻な話題「きれいな海やおいしいウニ、かわいい電車、それだけじゃ人は生きていけない」のナレーションに続く、 「それでもアキはここが好き。ここにいる自分が好きです」 と、「袖ヶ浜駅」ホームで屈託なく笑う顔に潮風を感じるカットだ。 やがて知り合い友だちどうしになったもう1人の少女が、トンネルに向かって自分の希

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