「身ぶり」としての思考 ―― 矢野久美子著『ハンナ・アーレント、あるいは政治的思考の場所』(みすず書房、2002年)によせて 村井 洋(島根県立大学) 近年、アーレント研究の興隆は日本語文献においても著しいものがある。アーレントに主題を絞った書籍に限っても伊藤洋典『ハンナ・アレントと国民国家の世紀』(木鐸社刊2001年)、杉浦敏子『ハンナ・アーレント入門』(藤原書店刊2002年)をはじめとして注目すべき業績の枚挙にいとまがない。ここで取り上げる矢野氏の取り組みは、アーレントのバイオグラフィーとビブリオグラフィーとの結びつきを主題にした点で特色があると思われる。伝記的事実を重視したアーレント研究には、すでに寺島俊穂『生と思想の政治学』(芦書房刊1990年)という先駆的業績があるし、近年では太田哲男『ハンナ=アーレント』(清水書院刊2001年)も刊行されている。そんな中にあって矢野氏は、「