はじめに 近年、子どもの自殺予防において、「援助希求能力を高める」とか、「SOSの出し方を教育する」といったスローガンをよく耳にする。 たしかに自殺リスクの高い子どもに共通するのは、援助希求能力の乏しさだ。たとえばある種の自殺ハイリスクな子どもは、リアルな人間に相談したり助けを求めたりする代わりに、カッターナイフの痛みをもってこころの痛みから意識を逸らし、過量服薬によってこころの痛みを麻痺させて、かろうじて現在(いま)を生き延びている。 何も自殺リスクの高い子どもにかぎった話ではない。むしろ援助希求の乏しさは、年代を問わず、そしてまた自殺予防にかぎらずに、依存症支援や虐待防止、犯罪被害者支援、地域精神保健福祉といった、さまざまな領域の支援困難事例に共通する特徴だ。その意味では、人生早期の学校教育においてSOSの出し方を教え、援助希求能力を育むべきだ、という発想自体が必ずしもまちがっているわ