『ルネサンス 経験の条件』と題された、岡崎乾二郎のこの上もなく美しい著作に接近する手前で、ピエト・モンドリアンをめぐる有名な逸話に迂回してみることにしよう。それは、彼がいつまでも同じタブローに取り組みつづけていることに疑念を呈したひとりの友人が、これほど幾度となく描きなおすぐらいならば、何点もの作品を制作しうるのにと思いつつ、この執拗な取り組みの理由を尋ねると、この部分がまだ充分に平坦ではないからとモンドリアンが返答したという逸話である。ここからさまざまな考察の糸口を見出すことができるが、とりあえず、二つの点を指摘しておきたい。ひとつは、モンドリアンにとって、物体としての美術作品、しかも市場の流通の経路を循環しうるという意味では商品でもありうる美術作品の生産が重要なのでなく絵画制作とはまぎれもなく認識の活動であり、それ以外のなにものでもなかったということである。いまひとつは、画面の平坦さの