私はばかみたいに本を読む。どうしてかといえば、もうひとつの世界に行かなくては健康が害されるからである。私は物心つくかつかないかのころから、現実でないものを見るためだけに日ごと夜ごと本を読んでいた。まとまった時間などなくてもよい。あればもっとよいけれども、十分でも三分でもよい。向学心も向上心もない。読んだあとに役に立てようという気がない。本の中は現実でなければそれだけで価値があった。空想された物語がもっともよかったが、他者の人生であろうが、数字の並びであろうが、論述であろうが、眼前の〈この現実〉でさえなければそれでよかった。 私の生育環境をちらと聞いた若い人が「えっ何それ地獄じゃないですか」と言ったので、まあそんなようなものかなとこたえた。しかしそれは子どもの時分の話である。十八歳以降は現実をそんなに嫌いではない。だいたい幸福だったし、いい人生を過ごしてきたと思う。人生も半ばまできて、身のま