新型 コロナの前からアルコール消毒をする人だった。ウチの奥様だ。彼女がアルコールを手指に吹き付けるのは、我が家では当たり前の光景だった。僕が神経質すぎやしないか?と笑うと、彼女は「管理栄養士の職業病かも」といって微笑んだ。穏やかな時代だった。手指のほか、家電や家具の手が触れるところ、ドアノブ、冷蔵庫のドアなどが対象だった。僕も、40歳をこえると、ドアノブ軍団に入れられた。僕が触れたところは消毒、消臭。手洗いを終えると光の速さで飛んできて僕の手のひらにアルコールをシュッシュした。そして、彼女の正しさは2020年に証明された。 母もアルコール消毒をする人だった。もっとも、その習慣が定着したのは、父が亡くなったあと、葬儀屋で働き始めたころだ。そこで手洗いのあとのアルコール消毒を学んだのだろう。もっと昔、たとえば僕が小学生低学年の頃は、今のようにアルコール消毒をする習慣は一般的ではなかったと思う。