『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』 オリヴァー・サックス 『レナードの朝』で知られるオリヴァー・サックスが七人の患者について綴る医学エッセイ。 大変有名なのであまり期待せずに読んだのですが(天邪鬼)、予想に反して素晴らしい本でした。 「面白かった」というより「素晴らしかった」と書きたい。そういう作品です。 個人的に特に惹かれたのは、五十歳を過ぎてからほぼ初めて視力を手に入れたヴァージル、病気をきっかけに故郷ポンティトについてしか語らなくなり、写真のような正確さでポンティトの絵を描き続けるフランコ・マニャーニ、そして本書のタイトル「火星の人類学者」、つまり「異星から人間を観察するようにして人間たちのありようを理解するしかない者」として自らを評する自閉症の動物学者テンプル・グランディン。 ヴァージルは「見える」世界に馴染むことができず、再度の発病により視力のない世界へと帰っていき