僕はつくづく思うのだが、仕事の壁を乗り越えるためのヒントや、進路に迷ったときのアドバイスなどの大事な言葉は、だいたいにおいて小声で、それも囁かれるように語られる気がしてならない。 それを痛感した経験があるのだ。 新人時代の話である。僕はビジネス誌の新米記者で、秋晴れのある月曜日、列車に揺られていた。目的地は全国でも指折りの中小工場が集まる町である。その数は部品メーカーや金属加工メーカーを中心に数百社に達し、家電や精密機器、自動車など輸出産業の下請けとして日本のモノ作りを支えていた。 与えられた仕事は、そんな下請け工場の実態をリポートすることだった。 取材にあたり、僕には一つの切り口があった。日本の輸出産業を足元で支えてきた下請け工場は円高で苦しんでおり、町で生き残れるのは部品メーカーや金属加工メーカーではなく、数少ない製品メーカーではないか、というものだ。 実はそれは東京での事前の取材で、
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