それは年の瀬の下北沢だった。 僕はジムで汗を流した後、三省堂書店まで歩いていた。平日の麗らかな午後だった。 三省堂に行く途中に、昼間からあいている飲み屋がある。ジムに行ったおかげで前日の酒が抜け、心身ともに健全だった僕は、そんな大魔境には目もくれず颯爽と通り過ぎようとしたのだが、ふとカウンターで飲んでいる男性(50代くらい)に目がいった。その風貌が異様だったからだ。 顔は一面、ガーゼだらけ。頭は包帯でぐるぐる巻きにされている。傷はまだ新しそうだ。いかにも痛々しそうな状況なのにもかかわらず、昼間から一人で日本酒をあおっているこの男性は何者なのか。いったい何があったというのか。 おそらく、前日に酔っ払って喧嘩でもしたのだろう。相手は、若い劇団員かバンドマンだったはずだ。勢いよく絡んだはいいが、酒で足元がおぼつかない男性は、ボコボコに殴られた違いない。それも一方的に。 年末で忙しいというのに、お