東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県牡鹿郡女川町。県北東部、北上山地と太平洋が交わる美しいリアス式海岸を望む小さな港町が、今注目を集めている。東北の被災地では生活基盤の再建が今なお困難を極め、多くの被災者が仮住まいを強いられているなか、女川で民間がリードを握る復興計画が進んでいた。なぜ女川だけが、巨大防潮堤を選ばなかったのか――海と共に生きる道を取ったその独自の取り組みを取材した。 女川復興のシンボル、多機能水産加工センター「マスカー」 2012年10月、女川町に津波を受け流す新しい構造の水産加工センター「マスカー」が完成した。潮の満ち引きを利用する中東カタールの伝統漁法から命名されたこの冷凍冷蔵庫は、東日本大震災の被災地復興支援プロジェクトに資金を援助するカタールの基金から20億円の資金助成を受け建設された。日本有数のサンマ漁獲量を誇り、町内総生産90%を水産業が占め、人口の半分が水