どんな仕事も自分でやってみないと、その仕事のコツもツボも難しさも抜け道もわからない。ぼくも雑誌をやってみて、花森安治の独創的な仕事ぶりの何たるかがちょっとはわかった。いや、そのつもりになっていたことがあった。 ソ連大使館の奥のほうにあった東麻布の編集室をたずねたこともある。忙しそうに女性スタッフたちが動いていて、オカッパの花森安治さんが、そのときはスカートを穿いていなかったが、ぼくの質問に面倒くさそうに答え、それから「ああ、あと小一時間もしたら編集会議をやるから、それを聞いていきなさい」と言われた。 編集会議は花森ショーのようなものだったが、そういう感想はよくない。スタッフが抱えるすべての問題に独得の指針を与えていたというべきだろう。まだ20代の後半だったぼくは片隅でぼうっとして、その説明力が微にも細にもわたっていくのを、いつ質問がこちらに飛んでくるかとびくびくしながら見とれていた。 そう