ブックマーク / econ101.jp (12)

  • アダム・トゥーズ「ガザ: ネタニヤフの《経済的平和》という夢想のような経済地理構想の現実的な役割」(2024年5月23日)

    正直に白状すると,はじめて上記の画像を見たときには,「なにかのでっち上げ画像だろうか」と思った. 天を突く高層ビル,太陽光発電所,コンテナ船,洋上の石油採掘施設――生成 AI で出力した都市・地方集住地の理想像で,集中管理された豊かな都市国家が描かれている.シンガポールかアブダビのような様相を見せるこの図像には,しかし,具体的にどことわかる見知った感覚はあまりわいてこない. だが,これはインチキ画像ではなかった.これは,2035年のガザ地区の図像だ.イスラエルのネタニヤフ首相官邸がこれを構想した.そう,10月7日のハマスによる攻撃への報復として暴虐な戦争をすでに8ヶ月も続けている,あのネタニヤフ首相の官邸だ.数百万人もの強制退去と 35,000人以上のパレスチナ人殺戮で一掃された土地,イスラエル国防軍によってガレキの山と飢餓の地域にされた人口の密集する都市空間に,ネタニヤフのもとで働くプラ

    アダム・トゥーズ「ガザ: ネタニヤフの《経済的平和》という夢想のような経済地理構想の現実的な役割」(2024年5月23日)
  • アンドルー・ポター「ウクライナのロシア国内への越境侵攻は『プーチンのメンツ潰し』や『停戦交渉のための戦果獲得』などではない。負けつつあるウクライナからの欧米諸国への警鐘だ」(2024年8月19日)

    ウクライナ政府によるロシアへの越境侵攻はプーチンのメンツを潰した、との指摘がある。この侵攻は、ウクライナが敗戦の危機に瀕していることについての西側諸国への警鐘でもある。 ウクライナのクルスク侵攻の真意とは? ウクライナ地上部隊が国境を超えてロシアに奇襲侵攻してから2週間が経過した。その間に、ウクライナロシア領を1,000平方キロメートル奪った。ウクライナ軍は、ロシア兵を数千人殺害し、数百人以上を捕虜とし、装備を大量に破壊し、週末にはセイム川にかかる橋を2破壊し、さらに別の橋を破損させ、ロシア軍を孤立させ、補給と増援を遮断した。 しかし、これだけ成功を収めているにもかかわらず、ウクライナがこの侵攻で何を達成しようとしているのかについては、誰も(アメリカもイギリスもドイツも、そしてむろんロシアも)あまり理解できていないようだ。 この戦争で、ロシア領土が敵対勢力に占領されたのは今回が初めてで

    アンドルー・ポター「ウクライナのロシア国内への越境侵攻は『プーチンのメンツ潰し』や『停戦交渉のための戦果獲得』などではない。負けつつあるウクライナからの欧米諸国への警鐘だ」(2024年8月19日)
  • ノア・スミス「ベーシックインカム研究でさらにがっかりな結果」(2024年7月23日)

    3週間前の記事で,デンバーで行われたベーシックインカム・プロジェクトから得られた少々がっかりな研究結果に注目しておいた〔日語版〕.さて,今度は,イリノイ北部とテキサス中部で実施されたはるかに巨大で長期的なベーシックインカムの無作為化対照実験の研究結果が出てきた.Vivalt et al. の論文から,主な研究結果の要旨を引用しておこう: 研究では,所得の変化が原因となって人々の雇用に関わる多種多様な項目に生じた影響を検討する.そのための実験として,低所得の個人から無作為に対象者を1,000名選出し,無条件に1ヶ月あたり 1,000ドルの現金給付を3年間続けた.また,対照群として,2,000名の参加者を選出し,1ヶ月に 50ドルの給付を続けた.研究では,詳細な調査データ・行政記録・専用スマホアプリからのデータを収集した.現金給付によって,対照群に比べて給付を除外した個人所得の総額は 1

    ノア・スミス「ベーシックインカム研究でさらにがっかりな結果」(2024年7月23日)
  • アンドルー・ポター「X世代はなぜこうまで反動保守的なのだろう?」(2024年7月17日)

    我々X世代が、MTV世代から古き良き共和党(GOP)世代になった真相は、身売りしたのではなく、ノスタルジアの容赦のない力だ。 〔訳注:「X世代」は、「ジェネレーションX」とも呼ばれ、1965年から1970年代生まれの世代を指す言葉(現在2024年で40代後半から50代後半に当たる)。ベビーブーマー(団塊の世代)の次の世代であり、先進国の戦後復興的な基礎価値観から逸脱したような思想を示した世代と一般的に見なされている。イーロン・マスクやフロリダ州知事ロン・デサンティスが世代を代表する人物として語られることもある。日での「新人類」と呼ばれた世代と並べて語られることもある。〕 ドナルド・トランプが次のアメリカ大統領になる可能性は極めて高い。同様に、カナダ保守党の党首であるピエール・ポワリエーヴルが次の首相になる可能性も高い。これらが実現すれば、X世代はついに念願の反動保守政府を手にしたことにな

    アンドルー・ポター「X世代はなぜこうまで反動保守的なのだろう?」(2024年7月17日)
  • ノア・スミス「Twitter 入り浸りは精神衛生に有害」(2024年3月9日)

    ソーシャルメディア利用と精神衛生の悪化の相関を見出してる研究は山ほどある.でも,de Mello, Cheung, & Inzlicht によるこの研究こそが,ぼくにとっては真打ち登場って感じだ: 世間の論議では,よく,Twitter(現 X)がユーザーと社会に有害な影響を引き起こすと言われている.稿では,合衆国の Twitter ユーザーたちの代表的標から252人の参加者を得て調査を行うことで,この研究課題に取り組む.我々は,一日5回の質問を7日間にわたって継続した(6,218回の観察).調査結果から,Twitter 利用が幸福度の悪化および政治的二極化・怒り・帰属感覚の増加に関連していることが明らかになった.効果量は,社交的なやりとりが幸福度にもたらすものに近い.こうした影響は,人口統計上の特徴〔年齢や居住地域や就業状況など〕や性格特性を考慮しても一貫していた.データから推測される

    ノア・スミス「Twitter 入り浸りは精神衛生に有害」(2024年3月9日)
  • ノア・スミス「1997年から日本経済がどれほど不調だったか」(2023年11月26日)

    通説では,1990年にかの不動産バブルがはじけてから日は「失われた○十年」に苦しんできたという話になっている.実のところ,一人あたり GDP を見ると,他の豊かな国々にくらべて日の実績が見劣りしはじめた起点は1990年ではなく1997年に思える.97年といえば,アジア金融危機のあった頃だ. この「失われた○十年」論に対して典型的に向けられる反論では,こう語られる――日が停滞しているように見えるのは,大半が人口の高齢化によるものであって,実際の生産性で見ると日は2000年頃から問題なくやっている.新しく出た Fernandez-Villaverde, Ventura, & Yao の論文は,こう主張している: 多くの先進諸国では,この数十年で,高齢化にともなって,一人あたり GDP成長と労働年齢の成人一人あたり GDP 成長のちがいは大きくなってきている.日のように一人あたり GD

    ノア・スミス「1997年から日本経済がどれほど不調だったか」(2023年11月26日)
  • ジョセフ・ヒース「白人のマウント合戦:コフィ・ブライトの仮説を拡張する」(2023年8月25日)

    アメリカでは人種的正義を求める闘いに馳せ参じれば並外れた文化的名声を獲得できるため、世界中で模倣者を惹きつける傾向を生んでいる リーアム・コフィ・ブライトが『Journal of Political Philosophy(政治経済学ジャーナル)』に最近投稿した論文「白人のマウント合戦」での、アメリカの人種政治についての見解を大いに楽しませてもらった。まず最初に、この論文は査読の通過がほぼ不可能な形で執筆されているため、無事掲載されたこと自体に驚かされた。アカデミアにおける哲学論文は、査読者全ての怒りを鎮めることで、あたかも委員会によって書かれたように見えてしまう問題に悩まされている。さらに重要なのが、私見だが、アメリカ文化戦争に、ブライトのようなイデオロギー的に客観的なスタンスを示すことの極めての有用性である。 ハッキリ言っておくが、私はブライトの見解のほとんどに同意できない。しかし、彼

    ジョセフ・ヒース「白人のマウント合戦:コフィ・ブライトの仮説を拡張する」(2023年8月25日)
  • ノア・スミス「うん,もちろん TikTok は禁止すべきだよ」(2023年3月20日)

    武器に転用された相互依存を減らす トランプが試みて失敗したことを,いまバイデンと議会が試みている:中国企業が所有している動画アプリ TikTok の強制的な禁止だ.親会社の ByteDance が同アプリをアメリカ企業に売却しないかぎり,アメリカ国内での運営を強制的に停止しようと,バイデンたちは試みている.これには理由が2つある.そして,そのどちらも,「アメリカの子供たちの注意力が下がるのを防ぎましょう」とか「アメリカ企業を競争から救いましょう」といった話と関係がない. TikTok禁止に動いている理由は次の点にある: TikTokアメリカ人ユーザーたちに関するデータを中国共産党に送信していて, しかもTikTok はおそらく中国寄りの検閲を受けており,アメリカ人ユーザーたちが中国共産党のさまざまな目標を支持するように誘導しようと試みている. ごく簡潔に,それぞれの理由について話そう.

    ノア・スミス「うん,もちろん TikTok は禁止すべきだよ」(2023年3月20日)
  • ノア・スミス「実は日本は様変わりしてるよ」(2023年1月23日)

    By 稲ノ歯鯨 – Own work, CC BY-SA 4.0 2020年代は1990年代とはちがう BBC の東京特派員ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズが書いた,日についてのエッセイが広く話題になってる〔日語版〕.ぼくも読んでみたけれど,ひどくいらいらしてしまった.このベテランジャーナリストは――2012年から日に暮らして働いたすえに――日の印象をまとめている.彼によれば,日は停滞して硬直した国で,「ここに来て10年経って,日のありようにもなじみ,次の点を受け入れるにいたった.日は,変化しそうにない.」 でも,日に暮らしたことがあって,2011年以降も年に1ヶ月間ほどここに来て過ごすのを繰り返してる人物として,そして,日経済についてかなりの分量を書いてきた人物として言わせてもらえば,日はまちがいなく様変わりしてる.すごく目につきやすくて重要なところがあれこれ

    ノア・スミス「実は日本は様変わりしてるよ」(2023年1月23日)
  • ノア・スミス「脱成長論はろくでもないってみんなも気づきつつある」(2021年9月5日)

    [Noah Smith, “People are realizing that degrowth is bad,” Noahpinion, September 5, 2021] 脱成長論者が提唱してる狂った構想は,地球を救う物の対策からぼくらの気をそらしてしまう幻想だ. 「脱成長」を唱える人たちがいる――地球を救うために経済成長を停止する必要があるのだと,彼らは言う.今回は,これがすごくダメなアイディアである理由を解説する長文記事を書くつもりでいた.ところが,ぼくが書くまでもなく,すでにそういう文章を書いてる人たちやポッドキャストで語ってる人たちが他にいる.たとえば,ブランコ・ミラノビッチ,ケルゼイ・パイパー,エズラ・クラインといった人たちだ.そこで,かわりに今回は各種の脱成長論をカタログにまとめて,その要点をとらえることにしよう. ただ,その前にまずは,標準的な主張を見ておこう.そうす

    ノア・スミス「脱成長論はろくでもないってみんなも気づきつつある」(2021年9月5日)
  • ポール・クルーグマン「芸人としての経済学者」

    Paul Krugman, “Economists as Entertainers,” Krugman & Co., December 26, 2014. [“The Oz Effect,” The Consciece of a Liberal, December 20, 2014.] 芸人としての経済学者 by ポール・クルーグマン Christopher Gregory/The New York Times Syndicate イギリスの研究者たちによると,ドクター・オズが語っている健康アドバイスの半分以上は,根拠レス(主張を支える根拠がない)か,間違っている(根拠は彼の言い分と矛盾している)んだそうだ.Vox のジュリア・ベルズが言うには,意外でもなんでもないとのこと:「なにより,オズは娯楽産業の人間だ」と彼女は書いている(リンク). でも,今回の要点はそこじゃない.要点は,娯楽産業

    ポール・クルーグマン「芸人としての経済学者」
  • クルーグマン「間違ってたときにすべきこと」

    Paul Krugman, “What to Do When You’re Wrong,” Krugman & Co., November 29, 2013. 間違ってたときにすべきこと by ポール・クルーグマン 評論家の Barry Ritholtz がこの前,オンラインの文章で思い出させてくれたように,通貨毀損とインフレを警告する例の公開書簡がでてから3年目を迎えた.この書簡は,連銀の量的緩和政策が悲惨な帰結をもたらすだろうと警告していた.あからさまに間違ったわけだ. それに,この書簡をいま読み直してみると,執筆陣はいったいどういう経済モデルを念頭においていたのか,不思議になってしかたない.著者たちはこんな風に書いてる:「計画されている資産購入は,通貨毀損とインフレのリスクを冒している.また,この政策によって,雇用推進という連銀の目的が達成されるとも思えない」 じゃあ,拡張せずしてイ

    クルーグマン「間違ってたときにすべきこと」
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