(1)石垣と板塀に挟まれた細い蛍坂。左側には瓦屋根の住宅が並ぶ。名前は近くにホタルの名所があったことにちなむ 全長約八十メートル、幅は人がすれ違えるくらい。そんな小さな坂にも名がある。蛍坂。着物の女性が下る先にはかつて、蛍沢と呼ばれるホタルの名所があった。 一九七二年、多摩美術大三年だった林田廣伸さん(68)=東京都練馬区=が授業の課題で撮影した。結婚するまで暮らした台東区谷中の実家から歩いて十分。小学生のとき同級生に教わり「坂を知っていることが秘密っぽくて特別な感じ。わくわくしながら通った」。対照的に、坂の裏手にある寺院・加納院の森加奈子さん(52)は、「塀と崖に挟まれた狭くて暗い一本道で、怖かった」と振り返る。