老いを追う 2 〜年寄りの歴史〜 畑中章宏 第一章 母をすてる 2 老人をすてることはわたしたち日本人の慣らいであり、母をすてにいくことは決してひどい仕打ちでも、残酷なことでもない。そんなふうに自分に言い聞かせながら、姥捨伝承をしばし読みすすめていくことにする。 『遠野物語』の遠野で、六十歳を超えた老人が追いやられる蓮台野(れんだいの)は、いくつもあった。『遠野物語』の続篇『遠野物語拾遺』では、蓮台野のことを「デンデラ野」と呼び、「方々(ほうぼう)の村のデンデラ野にも皆それぞれの範囲が決まっていたよう」だとある。つまり、老人をすておくための施設が、村ごとに準備されていたことになる。 土淵町山口のデンデラ野は、いまでは遠野を代表する観光地のひとつとして、訪れる人も少なくない。「日中は里へ下り農作して口を糊(ぬら)したり。そのために今も山口土淵辺にては朝(あした)に野らに出ずるをハカダチといい