農家が農業の話をしているだけなのに、まるでスタートアップ系企業のプレゼンテーションでも聞いているかのよう。本書の読書体験を一言で表すと、そんな風になる。 そこにはステレオタイプな農家像に見られるような、寡黙さも清貧なイメージもない。「日本一話のうまい農家」を自負する著者が作り出しているのは「安全」なだけの無農薬野菜でも、「環境にやさしい」だけの有機野菜でもなく、新しい争点だ。 食の安全をめぐる「有機野菜」というキーワード。この言葉には、多くの人を思考停止にさせる特別なイメージがある。「有機農業だから安全」「有機農業だから環境にいい」。加えて既存の手法へのアンチテーゼ等も手伝い、体に悪い農薬を使ったものか、それともそれを使わない有機野菜か、そこが一つの争点となってきた。同じような光景は、農業に限らず他の分野でも見られるものだろう。 だが著者は、このような議論を二周遅れと切り捨てる。現在の農薬
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